陽電子とは何ですか?

陽電子とは電子の反粒子です。質量は電子と同じですが電子とは反対の正の電荷を持っています。
陽電子は放射性同位元素(Na-22等)や高エネルギー加速器、原子炉等を用いて発生することができます。陽電子の特徴として、物質中に入ると電子と対になって消滅するという性質があります。このとき、電子と陽電子の質量エネルギー(2×mc2)に相当するγ線(高エネルギー光子)が放出されます。

陽電子寿命測定(PALS)法とはどのような分析法でしょうか? 何がわかりますか?

PALS法では、陽電子を物質中に入射し、電子と消滅するまでの時間(陽電子寿命)を測定します。物質中に空孔(原子の抜けた空間)があると、陽電子は空孔に捕獲され、寿命が長くなります。空孔内で陽電子の寿命が延びるのは、空孔が電子の少ない空間だからです。このような性質から、物質中での陽電子寿命を測定することによって、空孔の有無、存在する空孔のサイズを知ることができます。

「PALS装置」の特長は?

「PALS装置」では、LSIや分離膜等の高機能材料で重要となっている表面・薄膜領域のPALS分析が可能です。従来のPALS法ではこれが不可能でした。その理由は、従来装置ではNa-22線源から放出される高速・白色陽電子線(~数100keV)をそのまま試料に入射していたので、陽電子の打ち込み深さが~0.1mm程度と深かったからです。「PALS装置」では、単色化したエネルギー可変の低速陽電子ビーム(0.5~20keV)を用いることにより、陽電子の打ち込み深さをコントロールし、分析深さを表面から数μmの範囲で自由に設定できます。これにより、基板上に成膜した薄膜など、表面近傍領域だけに限った空孔計測が可能になります。これまで、単色ビームを用いる深さ可変PALS法は陽電子発生に大型加速器を用いる施設(産総研)でしか行なわれてきませんでしたが、「PALS装置」は陽電子源にNa-22密封線源を用いた実験室サイズの普及型装置です。Na-22から得られる陽電子強度は加速器施設に比べて2~3桁以上弱いものですが、高効率単色化、高圧縮パルス化技術等により、現在では加速器施設と同等の性能(分解能、計測速度)が得られています。

図 従来のバルク測定法(左)と深さ可変PALS法(右)
検出できる空孔サイズは?

単原子空孔~数10nmのサイズの空孔が検出可能です。電子顕微鏡など従来の手法では見ることのできない金属、半導体の原子空孔やポリマーの自由体積空孔を検出できるのが大きな特長です。逆に数10nm以上の空孔は大きすぎて、計測が難しくなります。しかし、このような空孔は他の手法でも十分に検出可能であり、PALS法を使う必要はないと考えています。

図:陽電子寿命と空孔サイズの関係
引用文献: T.L.Dull et. al., J. Phys. Chem. B105, 4657 (2001).

分析深さはどの程度制御可能でしょうか?

分析深さは単色陽電子ビームの入射エネルギーを制御して、陽電子打ち込み深さを変えることにより行ないます。エネルギーが高いほどより深く打ち込まれることになります。その平均打ち込み深さは、物質の密度と入射エネルギーを用いて計算できます。「PALS装置」で用いる0.5~20keVのエネルギー範囲では、およそ表面(数10nm)から数μmの範囲で平均打ち込み深さを変えることが可能です。ただし、その分布の幅はエネルギーを上げて深く打ち込まれたものほど広がっていきます。打ち込み分布の幅は、平均打ち込み深さのおよそ半分程度になります。

必要な測定時間は?

通常、1スペクトルにつき約30分程度以内です。
注)Na-22線源強度が弱くなれば、その分、測定時間は長く必要になります。

測定可能なサンプルの形状、サイズは?

ビームサイズはφ5~10mm程度ですので、これより大きなものが必要です。通常1辺が15mm角程度の板状のものを使用します。

粉末状のサンプルは測定できますか?

金属やガラス等の基板に、薄膜状に固定できれば測定可能です。全てではありませんが、粉体を水やアルコールに分散させ、塗布、加熱・乾燥させることにより薄膜状に固定化できる場合があります。

サンプル温度を制御(加熱or冷却)した状態で測定することは可能でしょうか?

セラミックヒータによる加熱や液体窒素冷却が可能なサンプルホルダーを装着することができます(オプション)。

陽電子ビームによってサンプルにダメージを与えることはありませんか?

「PALS装置」で使用する陽電子ビームはエネルギーが~keVと低く、また強度は~104 個/秒・cm2 (~fA/cm2)と電子顕微鏡等と比較して桁違いに弱いものです。ポリマー等の弱いサンプルでも測定データにダメージの影響が現れることはありません(正確には、ダメージがあっても検出限界以下のレベルである)。

「PALS装置」の測定精度は?

PALS法では陽電子寿命スペクトルの時間分解能が良いほど、より微細な空孔まで精度の良い解析結果を得ることができます。深さ可変PALS法では、時間分解能は陽電子パルスビームの時間幅によって決まります。「PALS装置」では独自の極短パルス化技術により時間分解能250ピコ秒以下が安定して得られています。これは、金属・半導体等の原子空孔も十分に識別可能な精度です。

「PALS装置」の利用分野は?

LSI用薄膜材料(Low-k, High-k, Cuメッキ膜, レジスト, イオン注入欠陥等)、化合物半導体膜(GaN, GaAs, SiC等)、高分子フィルム、メソポーラス材料、ガスバリア膜、分離膜(RO膜, ガス分離膜等)などです。今後、利用例をホームページに順次掲載する予定です。

この装置でドップラー広がり(Sパラメーター)の測定を行なうことは可能でしょうか?

可能です。光電子増倍管の代わりにGe半導体検出器を設置することができます。また入射エネルギースキャンを自動で行なう 測定プログラムが用意されています。

「PALS装置」の導入にあたってどのような環境、準備が必要ですか?放射線使用に関して許可等が必要ですか?

装置は放射線管理区域に設定された実験室に設置する必要があり、また、文部科学省へ届出が必要となります。必要となる手続き等につきましては弊社までお問い合わせください。また、装置を安定に動作させるためには、空調機により室温管理された実験室へ設置が必要になります。

「PALS装置」の保守は?

陽電子源に使用しているNa-22の半減期は約2.6年です。陽電子消滅γ線の計数率は線源強度に比例しますので、年数を経ると減少し、より長い計測時間が必要となります。必要とする計測速度にもよりますが、通常は5~10年程度使用して新品と交換します。その他、真空ポンプは数年に1回程度はメンテナンスする必要があります。メンテナンスにつきましては弊社までお問い合わせください。

自動測定機能とは?

ロードロック室からサンプル測定室へ手動でサンプルホルダーを移動した後は、測定条件をPCに入力しスタートをクリックするだけで、最大5個のサンプルを自動で測定する機能です。

解析ソフトはどのようなものですか?

測定されたサンプルデータから装置固有のバックグランド成分を除去した上で、精度の高い空孔サイズと分布を求めることができる操作の簡単な解析ソフトです。